樹林帯から、日中歩いて登る、これぞ夏富士の愉しみ

吉永 厚子 耕一  









2003年の夏富士


コース・ガイドによれば、最も登山者が多い河口湖コースが2305mから、最短ルートの富士宮口は2400mから、しばらく樹林が続く比較的静かな須走り口は2000mから、下山道の大砂走りで有名な御殿場口は1440mから登り始める。

登山口の中で最も低い御殿場口の高さを目安に、各登山口の1300mから1400m付近から歩き始めてみよう。往復およそ12時間。早朝に歩き始めて、お昼には山頂に達し、夕方には登山口に帰ってくる。

海抜0mの田子の浦から富士に登るわけではない。草山三里を歩くのでもない。日の出とともに登り始め、樹林を愉しみ、砂礫や溶岩の道を一歩一歩、高度に体を慣らしながら山頂をめざす。木山三里・焼(石)山三里の夏富士。混雑のピークを外した、そんな日帰り登山を今夏愉しんだ(2003年)。






株式会社エアロ・フォト・センター画像データ提供、カシミール 3Dにて立体風景図作成.



1)吉田口(北口)

富士吉田、冨士浅間神社から登山道は始まる。しばらく平坦な舗装道路が続くので、山道らしくなる馬返し(1435m)から歩き始める。登るたびに、登山道の整備がすすんでいる。また、地元の人が日ごろのトレーニングに利用している。古道の復活がすすんでいるようだ。この登山道は、2合目の御室浅間神社本殿や道沿いの石碑など歴史を感じる登山道だ。朽ち果てた山小屋も多い。コメツガ、シラベなど黒木の林で森林浴を愉しもう。

天地の境と称する森林限界の5合目佐藤小屋は、富士山で最も長い期間営業している。隠し味にコヒーを使ったカレー・ライスに人気がある。年末大晦日には、この佐藤小屋のファンが集まり、あんこう鍋をつつく宴がくりひろげられる。ここ数年のことだが、バイオ・トイレがテストされ、今は常設されている。佐藤小屋のほんの少し上に今年から新しい小屋(里見平)ができた。

6合目で、河口湖コースと合流する。このコースは、7合目、8合目に数多くの山小屋がならぶ。いつまでたっても7合目が続き、やっと8合目になっても、さらに本8合目があり、不可思議な距離感のコースだ。

頂上からの下りは、ブルトーザー道を使っている。1980年の落石事故の大惨事以降作られた下山道は、今でも落石の危険が多い。10月はじめに8合目あたりで、びゅんという音で落石に気づいた。長大な斜面を砂煙をたてながら、ものすごいスピートで転がっていく。この光景を見ると怖くなる。佐藤小屋先代のご主人も、河口湖口では登りルート以外に安全な下山道は無いと考えている。

2)須走り口(東口)

須走り口も、吉田口と同様、旧登山道は浅間神社(須走りの)からスタートする。だが、自衛隊の演習地があったり、富士アザミラインができ、ほとんどの人は新5合目から登る。アザミラインの途中に旧馬返し(1365m)があり、ここから旧登山道を登ることができる。

あまり利用されていないのか、一部、道が荒れているところもある。往時の冨士登山道を偲ぶお勧めのルートだ。目印の黄色いリボン、白のペイントを追っていけばよい。登り始めてすぐに右へ和製グランド・キャニオンへの道を送って直進する。気持ちのよいなだらかな樹林を登っていく。旧道は、御室浅間神社の廃屋を通り過ぎ、やがて小冨士への遊歩道にぶつかり左折する。

新5合目からの道と合して、古御岳神社を過ぎる。樹林の溶岩道を歩く。(車で登り口まできて、森林限界以下で出発する登山道はここだけ)。やがて、山頂までの登山道が見渡せるところへでる。なだらか山容だ。登り易い斜面を軽快にすすむ。6合目から先は、火山荒原に変わる。7合目の太陽館あたりから傾斜がまして本8合胸突き江戸屋で河口湖口に合する。

下山道は、須走り口8合目江戸屋から、吉田口(河口湖口)と別れ、7合目太陽館まで、ブルトーザー道を下る。河口湖口と同じく落石の危険が高い。できれば登山道を下りたい。7合目太陽館の先から下山道をすすむ。須走りの砂走りだ。御殿場口の大砂走りほどのスケールはない。岩に注意しながら直線的にどんどん高度をさげる。比較的ゆっくり下ったほうがよい。

砂払い5合目の小屋(登山季節以外は小屋はたたむ)の南側、下山道の額を掲げた鳥居から下る旧道は、決してお勧めできない。沢に沿った歩きずらい道だし、疲れた足では危険でもある。歩けないので、道を外して歩く人が多く、貴重な自然を傷みつけている。砂払い5合目の小屋に右折せずに、砂走りを直進する。ブルトーザー道だが、傾斜もゆるく、紅葉の気持ちのよい樹林帯を下って、新5合目の駐車場横にでる。

新5合目のおみやげ物屋の前をとおり、小富士遊歩道にはいり、途中から馬返しにへの下山道に入る。入り口が分かりずらいので、登りに確認しておく。黄色いリボンと白のペイント・マークを追って、訪れる人も少ない樹林帯の旧登山道を約1時間ほど下る。

3)御殿場口(新道)

明治になって作られた御殿場口は登山口ではもっとも低い。宝永の噴火で森林限界が大きく下がって樹林帯はない。この登山口を上下すれば、富士山は偉大な砂山と思ってしまう。御殿場口の馬返しは標高1010mと、他の登山口の馬返しよりかなり低い。

現在の登り口は、新5合目だが、もともと新2合と呼ばれており、おおよそ登山道の半ばという5合目の感じは全くない。火山砂礫の道を宝永山を仰ぎながら登る。登山道と下山道が交差する5合5尺には、目印にするためか車がとめられている。火山礫のずり落ちそうな道をジグザクに登っていく。目標が少ないこの登山道は、富士山のなかでもなかなか距離感がつかめないコースだ。砂礫の広大な斜面をひたすら登る人は少なく、最も静かな通好みの登山コースと言われる。

6合目を過ぎて岩礫帯に変わり、やっと7合目の小屋にたどり着く。今までの長い登りに比べて、短い距離のなかに、日の出館、わらじ館、砂走り館、赤岩8合館と山小屋が続く。朽ちた8合目の小屋跡を過ぎ、長田尾根を横切る。大弛みの胸突きをスイッチバックで登りつめると、頂上の銀明水にでる。

下山は、7合目の日の出館まで登山道をくだる。9月になって夏山シーズンが終われば、長田尾根の鉄柵の脇を下るのもおもしろい。旧7合8尺の気象庁避難小屋は建て替えられた。今年2003年、吉田口の頂上にバイオ(焼却式?)トイレが新築され、この御殿場口の各小屋にも、夏の終わりに同じタイプのトイレが完成した。

御殿場口の特徴は、下りの大砂走り。7合目の日の出館で足ごしらえをすませる。(ロングスパッツの装着)。7合目を下ったところから登山道と別れ、大砂走りとなる。最初は、岩も混じって須走り口の砂走りと同じくゆっくり下る。走り6合の小屋跡を過ぎ、宝永山を右横にみるあたりから、砂礫が細かくなり、傾斜も強まって、底知れぬ厚さの砂礫の上を思い切り走って下れる。夏の宝永沢はガスに被われやすく、とんでもないところへ下ってしまいそうだ。標識の柱とロープを頼りに迷わずに下れる。

一歩で数メートル、あっという間に旧2合8尺の気象庁避難小屋に着く。この避難小屋はプロック積みなのだが、老朽化がびどく近づくなという注意書きがある。傾斜の弱まった火山礫の真っ直ぐな道を下って新5合目にでる。富士山に登ったら、何と言っても、下りは御殿場口の大砂走りを愉しもう。

4)須山口(南口)・富士宮口・御殿場口・須山口

須山口といっても、知っている人がどれほどいるだろう。市販の富士山ガイド・ブックには載っていない。奈良時代から、利用されていたといわれる須山登山道は、宝永の爆発によって廃道となるが、復興され明治にいたる。御殿場口と東海道線御殿場駅が開設されると衰退の一途をたどった。地元有志の努力により、1997年須山口登山歩道が完成する。2000年には、国土地理院の地図に明記される。

須山口登山道は、裾野市須山の浅間神社を起点とする。富士スカイラインの水が塚を1合目として、御殿庭を経て宝永山にいたるハイキング・コースが須山口登山歩道だ。水か塚公園から登り始めて、ブナ、ミズナラの樹林に入り、やがてウラジロモミなどの針葉樹林となる。コケモモの庭園、御殿庭(御殿庭中3合目)を通過し、宝永第2火口横の4合目に至る。第1火口横からトラバースして富士宮口新6合に至り、富士宮口と合流する。

河口湖口についで登山者の多い富士宮口は、御中道6合小屋跡を通り、新7合、7合、8合、9合、9合5尺の小屋を通過する。溶岩の岩盤が露出した急斜面の道だが、しっかりとした足場で登りやすい。最後の急登をつめて、浅間大社奥宮にでる。

富士宮口の下山道は、現在は登山道と同じ道をたどる。混雑をさけるためと御殿場口の大砂走りを愉しむため、下りは、銀明水へ回って御殿場口を降りよう。

大砂走りの旧2合8尺気象庁避難小屋の前から、須山口下山歩道に入る。この須山口下山歩道は、ところどころに標柱がある。ガスの出ると、宝永山裾野の道は、はじめての人には、ルートが分かりずらい。ルートを入力したGPSを使ったコースどりが必要になる場合もある。もっとも、視界がよければ、双子山の北を通るこの下山道は、フジアザミの群落や他の登山口にはない素敵な景色が魅力だ。宝永山、富士山ともに均整のとれた姿をみせてくれる。

四辻、暮岩、須山御胎内の近くを通って水が塚遊歩道にはいる。この道は通る人も少なく、樹林の道に倒木が多く、歩きずらいところも多い。それだけに豊かな自然林を味わうことができる。須山口、富士宮口、御殿場口を組み合わせたこのルートは、木山三里、石山三里、大砂走り、火山荒原、自然林と変化にとんだ富士山を愉しめる。一度お試しあれ。

このコースは、富士宮口から山頂を目指さずとも、宝永火口に降り立ち、火口の斜面を縦横に走る岩脈を眺めるのもよい。宝永山にのぼり、ここから眺める富士も迫力に満ちている。帰りは、大砂走りを駆け下りてくる設定もお勧めだ。

7月5日(土)
吉田口 馬返し(1435m)-吉田口頂上-お鉢めぐり-馬返し  「歴史の道」

7月19日(土)
御殿場口 新5合(1440m)-御殿場口頂上-大砂走り-新5合  「大砂走りの魅力」

7月27日(土)
御殿場口 新5合(1440m)-御殿場口頂上-お鉢めぐり-大砂走り-新5合

8月30日(土)
須走り口 新5合(2000m)-吉田口頂上-砂走り-新5合  「なだらかな登山道」

9月23日(火)
須山口 水が塚(1449m)--宝永山-大砂走り-水が塚  「宝永火口、宝永山めぐり」

9月27日(土)
須山口 水が塚(1449m)-富士宮口頂上-剣が峰-御殿場口頂上-大砂走り-水が塚  「変化にとんだ山登り」

10月4日(土)
須走り口 馬返し(1365m)-吉田口頂上-砂走り-新5合-馬返し  「樹林の中の旧登山道、往時をしのぶ」

    


Last modified 11/17/2003

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