吉永 厚子 耕一
自然豊かな精進口登山道。青木ヶ原樹海から、小御岳神社へと変化する多様な植生。さらに御庭・奥庭へと足を延ばせば森林限界の造形が愉しめる。 ニホンジカの行き倒れとそのスカベンジャー(掃除人イノシシ?ツキノワグマ?)、登山道をよこぎるニホンリス。 山麓のハクビシン。富士山にこんなにいたのか哺乳類。御中道のホシガラス。何種類かわからない(ウグイスは分るが)鳥類の鳴き声。
大きな大室山、長尾山。弓射塚、座敷山、大平山などの側火山。氷穴火口列や御庭・奥庭火口列、青木ケ原溶岩流。富士風穴。火山現象の宝庫。 誰か、精進口登山道は博物館であり、図書館だといっていた。
青木ケ原の溶岩流のうえには、木々が溶岩に絡まりながら、逞しい生命力を見せる。樹海を突っ切る登山道から見ても、迷い込んだら大変だと思う。正確な測量もできず、地図を描くのも難しいと思っていたら、航空レーザー計測技術を使った赤色立体地図なるものができた。
青木ケ原の樹海附近は、エコツアーのエリアとしてよく利用されるようになったが、この登山道を上下する登山者は少ない。最近の富士山登山ガイドで、この精進登山口を紹介したものを目にすることは少ない。
この精進口登山道は、大正12年山梨県ににより開鑿された。山梨県は原生林の自然美をまもるため、沿道両側三十間(約54m)を禁伐とした。この登山道の案内は、山梨県編纂「富士の自然界(大正14年)」に詳しい。
ただ、この登山道は、森林経営のための幹線道路を目的とした面もあり、登山道の幅(二間3.6m)、直進性など「大げさな道で、左程感銘を受けない(塚本繁松)」といった見方もある。確かに、長い一直線の幅広い登山道は、退屈してしまう。だが、御庭・奥庭から旧三合目に至る道は、人の登山のためのサイズで、周りの苔むした景観もあり、ホッとする。豊かな自然におどろき、大げさな登山道に退屈する不思議な魅力の精進口。
登山口の赤池から小御岳神社へ登り、御中道を御庭へ出で、奥庭から旧三合目を通り赤池へ帰ってくると、約13時間の行程となった。暗くなった青木ヶ原樹海で、焚き火をしている外人にあった(焚き火は禁止されている)。彼曰く「暗い樹海の中を歩いていて、怖くありませんか」。私思う「あなたが怖い」。