吉永 耕一
現在、我々カナディアン・ロッキーCanadian Rockiesと呼ぶ山脈は、原住民には、「光輝く山々:Shining Mountains」として知られている。これは、多分、雪を被った峰みねのきらめきをさしているのだろう。連邦政府の公式な地質学的調査では、東の内部平原Interior Plainsから西のRocky Mountain Trench(溝)、北部ブリティシュ・コロンビア州のリアード川Riard Riverから、南は国境までのカナダ西部の山岳地帯を指している。Handbook of Canadian Rockiesの著者Ben Gaddは、カナディアン・ロッキーの南限を、国境を越えて米国モンタナ州のグレーシャー国立公園まで延長している。これは、グレーシャー国立公園の山々は、地質学的にも生物学的にも、カナディアン・ロッキーの一部分であるから。
長さ:1450km 幅:150km 面積:180000km2 最高点:ロブソン山Mt. Robson 3954m
この地質学的カナディアン・ロッキーのなかで、バンフ、ジャスパー、クートネイ、ヨーホー国立公園と、マウント・ロブソンやマウント・アシニボインなどブリティシュ・コロンビア州立公園などから構成されるユネスコ世界自然遺産に指定された中央部Central Regionが、一般的に世界を代表する自然景観のひとつとして人々に知られている。
8/3 Sat
日本からバンクーバーVancouver、カルガリーCalgary経由でカナディアン・ロッキーに入った。27年ぶりだ。カルガリーのダウンタウンでMEC(Mounatain Equipment Coopカナダ版のREI生協組織、カナディアン・ロッキーのお膝元とあって、山の用具はほとんど揃う)によった後、トランス・カナディアン・ハイウェイTrans Canadian Highway1号線をスポーツカー・タイプのレンタカーで西へ向かう。見渡す限り果てしない平原を直線的に走る。制限速度は110km。カナダはメートル法の国。高速道路の表示は英語とフランス語の併記。次第に丘陵地帯となり、やがて、行く手には、カナディアン・ロッキーの山々がそびえる。
観光地で有名なバンフBanffもいいが、夏休みの時期は大勢の人出だ。狭い場所に建物がならんでまるで都会だ。バンフの少し手前、キャンモアCanmoreがお勧め。山のガイドや芸術家が住んでいて、広くて静かな雰囲気がいい。真夏でもキャンモアのシンボル、スリー・シスターズ峰には雪が降る。バンフ国立公園のFMラジオ・ニュースによると、今年の夏は異常気象が続いて、アウトドアにでかける人はすくなめとか。寒い。思わず、身震いして山の道具店に入る。暖かそうな山用の防寒ウェアを購入した。モーテルの部屋にも暖炉の種火がついている。紹介してもらったSINCLAIRというイタリア料理店がビンゴ!感じのいい店で地ビールもサラダもパスタもおいしかった。
8/4 Sun
キャンモアのスパー・ストアで昼飯を買い、ヒジター・センターによってからバンフへむかう。バンフ国立公園のゲートで家族用の年間パスを購入した。日曜朝のバンフは、人通りも少なく容易に駐車場が見つかる。27年前にも入ったBanff Book & Art Denでコロンビア・アイスフィールドColumbia Icefield地形図(1:50,000)Topographic Map 83C3を購入。米国では最近は作っていないUSGSの古い15 minutes (1:62,500)と、登山ハイキングにはスタンダードになっている7.5 minutes (1:24,000)の地形図が整備されている(アラスカは15 minutesのみ)。カナダで登山に使える地形図は1:50,000スケールのみのようだ。もっとも、広大なワイルダネスを持つカナダで、新しい1:25,000スケールの地形図を揃えるのは膨大なエネルギーがいるのだろう。パソコン用の地図ソフトで使う標高データも、探しているが見つからない。
ルイーズ湖Lake Louiseのビジター・センターに立ち寄る。ここではグリズリー・ベアGrizzry Bearの生態を記録した映画をみる。カナディアン・ロッキーはBear Countryなのだ。そういえば、トランス・カナディアン・ハイウェイの2箇所に、道路の上に幅50mの動物専用の歩道橋アニマル・オーバーパスAnimal Overpassが架かっている。これによって動物が道路の両側に行き来できるようにしている。公園内をカナダの幹線道路が通り、走る車が増え、ロード・キルRoad Killと呼ばれる動物の交通事故死が増えたため、対策として、道路わきにフェンスを張りめぐらし、動物の移動のため道路の下に専用のトンネル、アニマル・アンダーパス Animal Underpassが設けられた。対策は効果がありロード・キルRoad Killは激減したが、アンダーパスは、シカやエルクには効果があるが、オオカミ、クーガー、クマといった動物には、騒音にみちた狭いトンネルではなく、もっと開けた静かな通路を好むと言うことがわかり、オーバーパスが設置されることになった。
ルイーズ湖を出発してすぐに片道2車線のトランス・カナディアン・ハイウェイに分かれて、ルイーズ湖、ジャスパーJasper間230kmを結ぶ、対面車線の93号線、いわゆるアイスフィールド・パークウェイIcefield Parkwayに入る。整備され直線の多かった1号線から、自然環境が厳しく曲線主体の93号線にはいると、通行中のキャンピング・カーの速度がグッと落ち、それに抑えられて通行中の車の速度が遅くなる。たが、遅くなっても、いや、遅くなってからこそ、次から次へとあらわれるカナディアン・ロッキーを代表する氷河や山々や湖の自然景観をゆっくり観賞できる。
カナディアン・ロッキーの紹介に必ずといっていいほど出てくるペイト湖Payto Lakeに立ち寄る。氷河が削った岩の微粒子がエメラルド色の光のみ反射するため、氷河地帯の湖はなんとも言いがたい印象を残す。とりわけこのペイト湖は、展望台から俯瞰するかたちで湖を見るので、微妙な水面の変化がわかる。駐車場から昨夜の雪を薄く被った高山植物の咲くトレイルを10分ほど歩く。展望台から実際に眺めてみて、なるほどと関心した。
11号線が合流する、その名の通りのクロッシングCrossingで、ガソリンの補給をした。ここをでるとジャスパーまで間150kmはガソリンの補給ができない。マッターホルンの勇者エドワード・ウィパーが1901年、半年間カナディアン・ロッキーの山々を跋渉して、英国に帰って、「カナディアン・ロッキーの大なること、スイス・アルプスを50倍したものに匹敵する」と激賞した、氷河が作った景観の中を走っていると、ビッグ・ベンドBig Bend(大曲り)とよばれる大きなカーブを通過した。日本の国立公園ではスイッチ・バックに近いこきざみなカーブの連続で高度を稼ぐ経験をするが、この巨大なカーブでの上下はどうだ。国民性? ランドスケープ・アーキテクチャーのDesign Policyの相違? サンワプタ峠Sunwapta Passを超えるとコロンビア・アイスフィールドに到着。